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親が亡くなった後、遺言書がなかったために相続人同士で揉めた――そんな経験をした人の中には、「自分は必ず遺言書を残そう」と考える方も多いでしょう。ところが、いざ作ろうとすると「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」という2つの選択肢があり、費用も手間も無効リスクも大きく異なるため、どちらを選べばよいか迷ってしまいます。
この記事では、公正証書遺言と自筆証書遺言それぞれの作成手続き・費用・メリット・デメリットを実例とともに比較し、財産額・家族関係・年齢に応じた選び方、作成後の保管・見直しのタイミングまで解説します。
この記事のポイント
- 公正証書遺言は数万円の費用と証人2名が必要だが、無効リスクが極めて低く検認不要
- 自筆証書遺言は費用ゼロで作れるが、日付・押印・全文自筆の要件を満たさないと無効になる
- 法務局保管制度(3,900円)を使えば自筆証書でも紛失・改ざんリスクを大幅に減らせる
- 財産が複雑・相続人が多い場合は公正証書、シンプルな財産なら法務局保管の自筆証書が現実的
公正証書遺言と自筆証書遺言、手続きと費用の実際
| 項目 | 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 |
|---|---|---|
| 作成費用 | 5〜10万円程度 | 0円(法務局保管は3,900円) |
| 作成場所 | 公証役場 | 自宅など |
| 証人 | 2名必要 | 不要 |
| 作成期間 | 2〜3週間 | 数時間〜 |
| 検認 | 不要 | 必要(法務局保管は不要) |
遺言書には大きく分けて「公正証書遺言」と「自筆証書遺言」の2種類があります。まずはそれぞれの作成手続きと費用を具体的に見ていきましょう。
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらう形式です。手続きの流れは、(1)遺言内容の原案を作成、(2)証人2名を手配、(3)公証役場に戸籍謄本・印鑑証明書・不動産登記簿謄本などの必要書類を提出、(4)公証人と日程を調整して公証役場を訪問、(5)遺言内容を読み上げてもらい署名・押印、という流れです。証人2名は相続人や受遺者以外の第三者である必要があり、知人に頼めない場合は公証役場で紹介してもらえます(1人あたり1万円前後の謝礼が相場)。
費用は財産額によって異なりますが、例えば財産3,000万円を配偶者と子2人に分ける場合、公証人手数料は約5万円、証人謝礼2万円、必要書類取得費用数千円で、合計7〜8万円程度が目安です。財産が1億円を超えると手数料は10万円を超えることもあります。作成にかかる期間は、書類を揃えてから実際に公証役場を訪問するまで2〜3週間程度です。
自筆証書遺言は、自分で全文を手書きする形式です。用紙は何でもよく、費用はゼロ円。ただし、全文・日付・氏名を自筆で書き、押印することが法律上の要件です(財産目録のみパソコン作成可)。書き方に決まりはありませんが、「誰に」「何を」「どれだけ」相続させるかを明確に書く必要があります。作成期間は数時間で済みますが、後述する無効リスクがあるため、内容を慎重に検討する時間は別途必要です。
自筆証書遺言が無効になる典型パターンと法務局保管制度
公正証書遺言と自筆証書遺言の費用・手続きの違いを見てきましたが、より重要なのは「確実に効力を持つかどうか」です。
自筆証書遺言が無効になる典型的なパターンは、(1)日付が特定できない(「令和○年○月吉日」は無効)、(2)押印がない、(3)全文が自筆でない(財産目録以外をパソコンで作成)、(4)複数人の共同で作成(夫婦連名は無効)、(5)加筆・訂正の方式違反(訂正箇所に押印がない、訂正印の位置が間違っている)などです。例えば、「自宅の土地建物を長男に相続させる」と書いたつもりが、地番や家屋番号を正確に書かず「自宅」とだけ書いた場合、対象が特定できず無効と判断される可能性があります。
さらに自筆証書遺言には、(a)紛失・隠匿のリスク、(b)家庭裁判所での検認手続き(相続人全員への通知が必要で、1〜2ヶ月かかる)が必要、という実務上の負担もあります。自宅の金庫に保管していたが火災で焼失した、相続人の一人が遺言書を見つけて隠してしまった、といった事例は少なくありません。
これらのリスクを大幅に減らせるのが、2020年に始まった法務局の自筆証書遺言保管制度です。法務局に遺言書原本を預けることで、(1)紛失・改ざんの心配がなくなり、(2)法務局が形式チェック(日付・押印・自筆の有無など)をしてくれるため基本的な無効リスクが減り、(3)家庭裁判所の検認が不要になります。費用は3,900円の手数料のみ。ただし、法務局は遺言内容の法律的な妥当性まではチェックしないため、「長男に全財産を相続させる」と書いて他の相続人の遺留分を侵害していても、それは指摘されません。
公正証書遺言のメリットが活きる場面、費用が高くなるケース
法務局保管制度を使えば自筆証書遺言の安全性がかなり高まることが分かりましたが、それでも公正証書遺言を選ぶべき場面はあります。
公正証書遺言の最大のメリットは、公証人という法律の専門家が関与するため、無効リスクがほぼゼロという点です。自筆証書の場合、法務局が形式はチェックしても、「この書き方だと遺留分を侵害する」「この表現では遺産分割協議が必要になる」といった法律的な問題には気づいてくれません。一方、公証人は遺言内容を法律的に整理し、曖昧な表現を明確にし、後のトラブルを防ぐアドバイスをしてくれます。
公正証書遺言が特に向いているのは、(1)財産が複雑(不動産が複数、非上場株式、借地権など)、(2)相続人が多い、(3)相続人以外に財産を渡したい(孫、内縁の配偶者、NPO団体など)、(4)認知症の進行が心配(公正証書は本人の意思能力を公証人が確認するため、後で「認知症だったから無効だ」と争われにくい)、といったケースです。
例えば、財産5,000万円、相続人4名、不動産3件を個別に指定して相続させる場合、公証人手数料は約8万円になります。一方、財産1,000万円、相続人2名、預金を半分ずつというシンプルな内容なら約3万円で済みます。つまり、財産額が大きく複雑なほど費用は上がりますが、その分、専門家のチェックを受ける価値も高くなるわけです。
また、公正証書遺言は原本が公証役場に保管され、全国の公証役場から検索できるため、「遺言書があるかどうか分からない」という事態も防げます。
どちらを選ぶべきか、財産・家族・年齢別の判断基準
| 状況 | おすすめ形式 | 理由 |
|---|---|---|
| 財産3,000万円超・相続人3名以上 | 公正証書 | 複雑な財産配分のミスを防げる |
| 財産2,000万円以下・相続人2名以下 | 自筆(法務局保管) | 費用3,900円で十分な安全性 |
| 再婚・前妻の子あり | 公正証書 | 後の争いを防ぐ法的確実性 |
| 60代で今後変更の可能性 | 自筆(法務局保管) | 撤回・書き直しが容易 |
公正証書遺言の確実性と、法務局保管を使った自筆証書遺言のコストパフォーマンスを理解した上で、では実際にどちらを選べばよいのでしょうか。
公正証書遺言を選ぶべき人は、(1)財産が3,000万円以上で不動産・株式など種類が多い、(2)相続人が3名以上いる、(3)相続人以外への遺贈を考えている、(4)家族関係が複雑(再婚、前妻の子がいる、相続人同士の仲が悪いなど)、(5)70歳以上で認知症リスクを考慮したい、といった場合です。費用5〜10万円は、後のトラブルを防ぐ保険料と考えれば決して高くありません。
自筆証書遺言(法務局保管)を選ぶべき人は、(1)財産が2,000万円以下で預金・自宅不動産のみ、(2)相続人が配偶者と子1〜2名程度、(3)財産を法定相続分通りに分けるか、「配偶者に全部」といったシンプルな内容、(4)まだ60代でいずれ書き直す可能性がある、といった場合です。3,900円で作成でき、いつでも撤回・書き直しができる手軽さは大きなメリットです。
年齢別に見ると、60代前半なら自筆証書で作成し、70代で公正証書に作り直すという方法も現実的です。また、「とりあえず今すぐ遺言書を残したい」という場合は、まず自筆証書を法務局に保管し、後日余裕ができたら公正証書に切り替える、という段階的なアプローチもあります。
遺言書作成後の保管と見直しのタイミング
どちらの形式で作るにせよ、遺言書は「一度作ったら終わり」ではありません。財産状況や家族関係が変われば、内容を見直す必要があります。
遺言書を見直すべきタイミングは、(1)相続人の誰かが亡くなった、(2)財産が大きく増減した(不動産を売却、相続で財産を取得など)、(3)新たに財産を渡したい人ができた(孫が生まれた、再婚したなど)、(4)遺言執行者に指定していた人が高齢になった、といった場合です。目安として、5年に1度は内容を確認することをおすすめします。
自筆証書遺言は、新しい内容で書き直せば自動的に古いものは無効になります(日付が新しいものが有効)。法務局保管の場合は、古い遺言書を撤回して新しいものを保管し直せます。公正証書遺言も同様に、新しい公正証書を作れば古いものは無効になりますが、古い公正証書が公証役場に残っているため、「新しい遺言書で前の遺言を撤回する」旨を明記しておくと混乱を防げます。
遺言書の存在を家族に伝えるかどうかも悩ましい問題です。公正証書遺言や法務局保管の自筆証書遺言は、相続発生後に相続人が照会すれば存在が分かる仕組みになっていますが、生前に「遺言書を作ったこと」「どこに保管しているか」だけでも伝えておくと、相続手続きがスムーズになります。ただし内容まで詳しく伝えると、生前に家族関係がぎくしゃくする可能性もあるため、「内容は見せないが存在は伝える」というバランスが現実的でしょう。
遺言書は、残された家族への最後のメッセージです。公正証書と自筆証書、それぞれのメリット・デメリットを理解し、自分の財産・家族関係に合った形式を選んでください。
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遺言書の作成は、残された家族が争わないための大切な準備です。この記事で解説した内容をまとめます。
- 公正証書遺言は5〜10万円の費用と証人2名が必要だが、公証人のチェックで無効リスクがほぼゼロ、検認も不要
- 自筆証書遺言は費用ゼロで作れるが、日付・押印・全文自筆の要件を満たさないと無効になる
- 法務局保管制度(3,900円)を使えば、自筆証書でも紛失・改ざんリスクが減り、検認も不要になる
- 財産3,000万円超・相続人3名以上・複雑な家族関係なら公正証書、シンプルな財産・家族構成なら法務局保管の自筆証書が現実的
まずは自分の財産と家族関係を整理し、どちらの形式が合うか検討してみることをおすすめします。また、一度作った遺言書も、財産や家族の状況が変われば見直す必要があります。5年に1度は内容を確認し、必要に応じて書き直すことで、確実に意思を伝えられる遺言書になります。
※この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談に代わるものではありません。遺言書の作成にあたっては、弁護士や司法書士など専門家への相談をおすすめします。
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