家族信託とは何か、認知症対策としての活用法|成年後見制度との違いと費用を財産額別に解説

保険・相続

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親が70代に入り、「もし認知症になったら、自宅を売却したくても子どもが勝手に手続きできない」という話を耳にして、成年後見制度や家族信託という言葉を初めて調べ始めた——そんな方は少なくありません。実際、認知症と診断された後では本人の判断能力が失われたとみなされ、預金口座の引き出しや不動産の売却が家族であってもできなくなります。家族信託は、判断能力があるうちに財産の管理権限を家族に託しておく仕組みで、成年後見制度と比べて柔軟な財産管理が可能です。

この記事では、家族信託の基本的な仕組み(誰が何をする制度なのか)、成年後見制度との実務上の違い(自宅売却・投資継続の可否など)、財産額別の具体的な費用(3000万円の場合は初期費用約50万円)、そして自分の家族に向いているかどうかの判断基準まで、認知症対策を考え始めた方に必要な情報を順を追って解説します。

この記事のポイント

  • 家族信託は判断能力があるうちに財産管理を家族に託す仕組み、認知症後は契約不可
  • 成年後見制度と違い自宅売却や投資継続に裁判所の許可不要、柔軟な管理が可能
  • 初期費用は財産3000万円で約50万円、5000万円で約70万円が目安
  • 不動産を持ち柔軟に管理したい家族に向く、相続人の関係性が良好なことが前提

家族信託の基本的な仕組み、委託者・受託者・受益者とは

家族信託の基本的な仕組み、委託者・受託者・受益者とは

家族信託とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる家族(受託者)に財産の管理・処分の権限を託し、その財産から生じる利益を受け取る人(受益者)を決めておく契約です。たとえば、父親(委託者)が長男(受託者)に自宅と預金3000万円の管理を託し、父親自身(受益者)が家賃収入や生活費を受け取り続ける、という形が典型例です。委託者と受益者が同一人物である場合が多く、父親が認知症になっても、長男が契約に基づいて自宅を売却したり預金を引き出したりできるようになります。

重要なのは、家族信託の契約は判断能力があるうちにしかできないという点です。認知症と診断され、契約内容を理解できないと医師が判断した後では、もはや契約を結ぶことができません。このため、親がまだ元気なうちに制度を知り、必要なら早めに準備を始めることが大切です。契約は公正証書で作成するのが一般的で、公証役場で本人の意思確認が行われます。

実際の事例では、70代の母親が一人暮らしの自宅マンション(評価額2000万円)と預金1500万円を持っており、将来の施設入居費用を確保するため、長女を受託者として家族信託を設定しました。母親が認知症になった後、長女は信託契約に基づいてマンションを売却し、その代金で有料老人ホームの入居一時金を支払うことができました。もし家族信託を設定していなければ、成年後見制度の申立てを家庭裁判所に行い、後見人が選任されるまで売却できなかったでしょう。

成年後見制度との違い、自宅売却や投資継続の可否を比較

項目 家族信託 成年後見制度
開始時期 判断能力があるうちに契約 判断能力低下後に申立て
財産管理者 契約で指定した家族 家裁が選任(家族とは限らない)
自宅売却 契約の範囲内で受託者が判断可 家裁の許可必要(要件厳格)
投資継続 契約で認めれば可能 原則認められない
賃貸管理 契約で定めれば継続可 本人居住予定ないと売却促される
年間費用 通常かからない(契約次第) 後見人報酬2〜6万円/月

家族信託の仕組みが分かったところで、多くの方が気になるのは「成年後見制度とどう違うのか」という点です。成年後見制度は、判断能力が不十分になった後に家庭裁判所が後見人を選任し、本人の財産を保護する制度です。一方、家族信託は判断能力があるうちに財産管理の権限を家族に移しておく契約なので、そもそも制度の性質が異なります。

実務上の大きな違いは、財産管理の柔軟性です。成年後見制度では、本人の財産を減らす行為(自宅の売却や投資の継続など)には家庭裁判所の許可が必要で、許可が下りるには「本人の利益になる」という厳格な要件を満たさなければなりません。たとえば、親が所有するマンションを賃貸に出し続けたい場合、成年後見制度では「本人が住む予定がない不動産を保有し続けるのは財産保全に反する」と判断され、売却を促されることがあります。一方、家族信託では信託契約で「賃貸事業を継続する」と定めておけば、受託者の判断で家賃収入を得続けることができます。

また、投資信託やETFを保有している場合、成年後見制度では原則として新規購入や売却は認められず、既存の保有分も「本人の財産を守る」という観点から現金化を求められることがあります。家族信託であれば、信託契約で「投資信託の運用継続を認める」と定めておけば、受託者が相場を見ながら売買を続けることも可能です。下の表で主な違いを整理しました。

家族信託の費用、財産額別の初期費用と年間費用

家族信託の費用、財産額別の初期費用と年間費用

成年後見制度と比べた柔軟性が分かると、次に気になるのは「いくらかかるのか」という点です。家族信託の費用は大きく分けて、契約時にかかる初期費用と、信託期間中の年間費用の2つがあります。

初期費用の内訳は、(1)公正証書作成費用(公証役場に支払う手数料、信託財産額で変動、目安3〜10万円)、(2)不動産がある場合の登記費用(登録免許税と司法書士報酬、土地は固定資産税評価額の0.3%、建物は0.4%、司法書士報酬は10万円前後)、(3)専門家への報酬(弁護士・司法書士に信託契約書作成を依頼する場合、30〜50万円程度)です。たとえば、財産3000万円(自宅評価額2000万円+預金1000万円)の場合、初期費用は合計で約50万円が目安です。財産5000万円(不動産3000万円+預金2000万円)なら約70万円、1億円(不動産6000万円+預金4000万円)なら約100万円と、財産額が増えるほど登記費用と専門家報酬が上がります。

年間費用は、信託契約の内容次第です。受託者が家族であれば通常、受託者報酬は設定せず無償で管理するケースが多く、この場合は年間費用はかかりません。ただし、不動産の管理が複雑な場合や財産額が大きい場合、信託監督人(受託者が適切に管理しているか監督する第三者)を置くことがあり、その場合は年間10〜30万円程度の報酬が発生します。成年後見制度では後見人報酬が月2〜6万円(年間24〜72万円)かかり続けることを考えると、家族信託は初期費用こそかかるものの、長期的には費用負担が軽いケースが多いと言えます。

家族信託が向いている家族、向いていない家族の判断基準

家族信託が向いている家族、向いていない家族の判断基準

費用感が分かったところで、最後に「自分の家族に家族信託が必要かどうか」を判断する基準を見ていきましょう。家族信託が向いているのは、(1)不動産を持っていて柔軟に管理・売却したい、(2)相続人の関係性が良好で受託者を決めやすい、(3)投資や賃貸事業を継続したいという家族です。

たとえば、親が賃貸マンション1棟を所有していて、家賃収入を老後の生活費に充てている場合、成年後見制度では賃貸事業の継続が難しくなる可能性があります。家族信託で長男を受託者にしておけば、親が認知症になっても長男が賃貸契約の更新や修繕の判断を続けられます。また、親がつみたてNISAや投資信託で2000万円を運用している場合、家族信託で「市場環境に応じて売却・買付を続ける」と定めておけば、受託者が運用を引き継げます(成年後見制度では運用継続は原則不可)。

一方、家族信託が向いていないのは、(1)財産が預金のみで不動産がない、(2)相続人の間に対立があり誰が受託者になるかで揉める、(3)本人がすでに認知症と診断されているケースです。財産が預金1000万円だけなら、成年後見制度や任意後見制度で十分対応でき、初期費用50万円をかけて家族信託を組む必要性は低いでしょう。また、「長男に財産管理を任せると次男が不満を持つ」といった家族関係の場合、信託契約を結んでも後でトラブルになるリスクがあります。すでに認知症と診断されている場合は、本人に契約能力がないため家族信託は利用できず、成年後見制度の申立てを検討することになります。

判断に迷う場合は、まず自治体の無料法律相談や地域包括支援センターで相談し、家族の状況(財産の種類・相続人の関係性・親の健康状態)を整理した上で、司法書士や弁護士に制度の比較と費用の見積もりを依頼するのが現実的な進め方です。初回相談は無料の事務所も多いので、複数の専門家の意見を聞いてから決めるとよいでしょう。

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家族信託は、親が認知症になる前に財産管理の権限を家族に託しておく仕組みで、成年後見制度と比べて自宅の売却や投資の継続など柔軟な管理が可能です。この記事のポイントを振り返ります。

  • 家族信託は判断能力があるうちに契約する仕組みで、認知症後は利用できない
  • 成年後見制度と違い、自宅売却や賃貸管理に裁判所の許可が不要で、投資継続も契約次第で可能
  • 初期費用は財産3000万円で約50万円、5000万円で約70万円が目安、年間費用は通常かからない
  • 不動産を持ち柔軟に管理したい家族に向くが、相続人の関係性が良好なことが前提

親がまだ元気なうちに制度を知り、家族で話し合っておくことが、いざというときの選択肢を広げます。まずは自治体の無料相談や地域包括支援センターで情報を集め、必要なら司法書士や弁護士に具体的な見積もりを依頼してみるのが現実的な第一歩です。

※この記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の法律相談や契約内容の判断は専門家にご相談ください。

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